“彼女”という人。

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「葉山は‥友達が欲しいとか…思わないのか?」 「思い始めたからアンタを気にしてるんでしょ」 「でも俺は男だし‥やってやれる事なんて数少ないぜ?」 「わかってないなぁ、鈍感野郎め」 「はぁ?」 とりあえず疑問になったのかイライラするのを抑えて一至は問いかけた。 「もーいい‥アンタも鈍いけど莉音も鈍いし…ほっとくに限るわ」 「それ答えになってねぇよ」 はぁ…と溜め息を漏らす小春に眉を潜める一至であった。すると1時限目の開始を告げるチャイムが鳴った。皆慌てて席につきだす。 「葉山のヤツ、遅くないか?」 「そうね…多分──上級生に囲まれてると思う」 「なっ?!」 「言ったでしょ、あの子はサラブレッドだって。だから才能あると思い込んでる人間がこの学校に何人かいるに決まってるでしょ?」 「そうかもしんないけどっ…」 「それに‥今の莉音なら先輩達に強く言われたら余計に怖くなって何にも言えなくなっちゃう。──今もきっと何にも言えなくてうつ向いたまんまよ」 「そこまでわかってて何でお前探しに行かないんだ?」 「あたしはノート取る役、アンタは救出係」 「はぁっ?!」 いつ決まったそんな事!と怒鳴りそうになったが今は先生が来ていないとは言え、授業中だ。一至はグッと堪えた。 「入学式の時も莉音を助けたんでしょ?」 「違う。俺が逆に助けられた」 「そうね、莉音も似たような事言ってた“私が助けようとしたのに高梨くんが私を助けてくれたよ”ってね?」 「そんなたいしたこと、してねぇよ‥」 あの時の記憶が鮮明に思い出されるのか一至は少し頬を赤くしてそっぽを向いた。 「助けてやってよ。先輩相手じゃあたしが助けたってきっとまた構いにくるに決まってる」 「俺が行ったって構いにくるだろ?」 「そんなのわかんないじゃない、お願い…助けてやってよ」 小春に頭を下げられて一至は頭を掻いた。昨日今日会ったばっかでたまたま道を聞いた女の子が偶然同じクラスだっただけの話だ。気にする必要ないはずなのに一至の頭の中は莉音を心配する気持ちでいっぱいだった。しかも親友である小春がこうしてまだ付き合いの浅い自分に頭を下げている。これはもう断る理由がないも同然だ。 「あとで覚えとけよ?」 そう吐き捨てると一至は教室を出ていった。
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