“彼女”という人。

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別にヒーローを気取りたい訳ではないが、このまま放置して帰ったら小春に何を言われるか解らない。ましてや莉音を泣かせたりした暁には張り手じゃ済まなさそうだ。要するに一至は“お世話焼き”悪く言うなら“お人好し”なのだ。 (どうやったら平穏に助けられる?──まずあの先輩達を黙らすだろ?でも黙らすには何をしたら…) ふと、先程のあの先輩達の会話を思い出した。 (“他の部活に入るって決めたの?それなら仕方ないとは思うけど…”って事は他の部活に入ったって事にすりゃいいんじゃ──) でもあの先輩達が納得するような部活はあるのだろうか。音楽関係にしてしまったら逆ギレされてしまうだろうし、文化部のあまり活躍の見られない部活にしても文句をつけられそうだ。 (なら──活躍もそれなりにしてて…音楽とかと正反対の“運動”系の部活なら‥) 一至は記憶を巡らせて該当する部活を探し始めた。すると1つだけ条件がぴったり合う部活を思いついて落胆してしまった。 (男子バスケット部しかないじゃん…何で俺ってこう──自分の興味あるモノの情報しかないんだよっ‥) 前まではそれで良かったかもしれないが、今救出に使える要素でないのは確かだ。 (女子が男子の部活に入るなんて出来るわけ──って出来るじゃん!) 一至はようやく達した答えに思わず立ち上がった。幸い先輩達と莉音は階段の踊り場にいるようなので死角になって一至は見えていないようだ。 (“マネージャー”って手段あるじゃん…良かった、情報が役立って‥でもどうやって切り出すかだな) 一至は今出ても間が悪いだろうと思って息を潜めて会話を聞く事にした。 「葉山さん、部活決めてないんでしょ?だったら弦楽部に入りなよ、今なら先生も私達も歓迎するわ」 「あら、合唱部だってそうよ?そうね…入部してくれたら貴方の好きな曲を歌わせてあげる」 「なら演劇部は好きなポジションをあげるわ!演出、舞台監督…どれでも好きなの!」 「だ、だから私は…部活をやるつもりは‥」 (――今だ!) 一至はグッと拳を握り締めて階段をダンッと大きな音を立てて上った。 「そんな強引な勧誘で葉山が入るって言うと思うんですか?」 「なっ‥誰よ、アンタ!」 階段を登ると案の定壁を背にした莉音が先輩に囲まれてうつ向いていた。
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