“彼女”という人。

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「誰?名乗ったって先輩達にはわからないでしょう?」 「なんですって!アンタ1年でしょ…3年にそんな生意気な口聞いていいと思ってんの?」 「敬語使ってますけど?」 「態度よ、態度!その態度が問題だわ!」 「上級生には従えって昔からのルールでしょっ!」 「有り得ない、今年の1年は生意気すぎるわ!」 どうやら完全に莉音への興味は薄れてくれたらしい。ちゃんと敬語で話したのにこんなに逆上するとは。よほど短気な人達なんだなと一至は苦笑した。未だに無言でうつ向いている莉音を助ける為にもここは早々と教室に帰らなければ。 「先輩達、何かお忘れですよ?」 「はぁ?アンタには用なんてないわよ!」 「そうよそうよ、今取り込んでるんだから黙ってくんない?」 「授業中にこんなとこにいるなんてサボりなんてよくやるわね!」 「(自分達は棚上げかよ、小っさいなぁ…)あのさ、葉山はどの部活にも入んねぇよ。――だっで男子バスケット部のマネージャーになったから」 「「「はぁああっ?!」」」 「え…っ?」 当然3人の先輩も一至の話を初耳な莉音も驚いた。 「実は男子バスケット部は今人数が増えてマネージャー不足で困ってたんです。そこで俺がクラスメートの葉山に頼んで頼んでようやく今朝入部するって返事してくれたんですけど…何か問題ありますか?」 嘘も方便とはよく言ったものだが、まさかこんなにペラペラと言えるとは思わなかった。莉音もきょとんとしていたのだが、徐々に一至が助けようとしている事に気付いて嬉しそうに小さく微笑んだ。 「せ、先輩達…ご、ごめんなさい‥私…先輩達に買い被ってもらう程‥出来た人間じゃないんです…私は‥“音楽”はやらないって決めてたし‥だから…お時間とらせて…ごめんなさいっ‥」 上手く言葉に出来た自信はなかったのだが莉音は深々と頭を下げて謝った。最初からこうしておけば高梨くんにウソつかせないですんだよね…と唇を噛み締めて。 「まあ男バスならしょうがないわね」 「琴乃だけじゃマネージャーは大変だもの」 「でももしウソだったら地の果てまで追っかけるわよ?」 「やだなぁ、先輩‥男バスに嘘つきはいませんよ」 一至が苦笑いして返すと3人の先輩はフンッ!と言わんばかりに階段を下りて帰っていった。残された莉音と一至に沈黙が訪れた。
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