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昔から家にバスケットボールが置いてあって、それがまるで運命だったのかのように小学生になるとすぐにバスケを習いだした。週に3回あって、行く度に夜遅くまで仲間達とボールを追っかけて、はしゃいで、楽しんだ。
小学校の高学年になるとすぐにバスケ部に入り、あっという間にメンバーに選ばれ公式戦にたくさん出るようになった。毎日部活と習ってるバスケで過ごしてきた小学生。いつの間にかバスケばっかりの生活になっていた。そして今日は中学の入学式を迎えたのだった。
「うぇー‥だぼだぼだし…」
「文句言わないの、3年もすればあっという間にぴったりになるか丈が短くなるんだから」
「俺学ランキライ。何でこんなの着るんだよ、小学校の時みたいに私服でいーじゃん」
「一至!中学校は小学校とは違うの、いつまでも小学生の気分でいるならもうバスケ辞めさせるわよ?」
「はいはい…すみませんでしたっと」
「かずしぃいいっ!」
怒鳴り出した母親程恐ろしいモノはない。やべっ、と小さく呟くと一至はそそくさと玄関に逃げた。成長するだろうと見込まれて買った真新しい学生服はかなり堅苦しい。首元のホックを緩めると一至は小さくため息を漏らした。
(バスケ辞めたら俺に何が残ると思ってんだよ、母さんのばぁーか)
運動靴を履き紐をキュッと結びながら一至は心の中で悪態をついた。バスケをするのは好きだ、それに楽しい。だから辞めたいとかそんな事今まで考えた事なかった。
「うっし、中学もバスケ三昧けってーっ!」
「一至っ!いつまでも玄関につっ立ってんじゃないわよ!さっさと行くわよっ?」
「──へーい…」
罵声が聴こえると一至は投げやりに返事をしてまだ汚れ1つない新品の鞄を持つと立ち上がった。
(長い…長すぎる!いつまで雑談すんだよ、母さんっ)
主婦とは悲しいモノだ。知り合いや顔見知りと出会うとすぐにお喋りという名の雑談が始まってしまう。そうして一至の母親は近所の同じ学年に子供がいる主婦達とかれこれ15分以上喋り続けているのだ。時々盛り上がって爆笑したり、お上品にぶってみたりと主婦は忙しそうだ。
(まだ受付済んでねぇのに…もう知らん!)
退屈そうに頬を膨らませて母が話に花を咲かせている場所から踵を返して歩きだした。あのままではいつ話が終わるかわかったもんじゃない。
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