“彼女”という人。

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「協力?」 「もし男子バスケット部の大会の時に葉山さんがマネージャー席にいないとなると──弦楽部のあの子は吹奏楽とオーケストラするんだから当然、ウソだってバレて時季に関係なく勧誘が再開すると思うわよ?で、演劇部の子と合唱部の子と仲良しだから絶対喋ると思うし…今日みたいになっちゃうわよ?ウソつくならもっと上手くやらないと、ね?」 「う、ぐ…」 長々と正論を述べられにっこり笑って琴乃に一刀両断された一至はがっくりと項垂れた。この先輩は悪魔のようだ…と内心思いながらも。 「だったらウソを本当にした方がまだ安全でしょ?大丈夫、顧問も部長も私には逆らえないから」 「そりゃ‥そうですけど…」 ふとちらりと莉音を見るとやっぱり柔らかく笑っていて、嬉しそうだった。 「私で良かったら‥マネージャー…やらせてください‥」 「ほら、彼女もこう言ってるんだし…ね?」 「でもっ」 「じゃあ葉山さん、あの仮入部希望調査表に男子バスケット部マネージャーって書いて担任に提出してね?早速今日から体験してもらうから」 「はい、よろしくお願いします…っ‥」 ただ心配する一至を無視して二人はすっかり仲良しになっていた。満足したのか琴乃は“じゃあ放課後に”とだけ言うとさっさと教室へと戻っていった。 「いいのかよ?」 「ん?何が?」 「あんなに簡単にマネージャーになって」 「うん」 莉音があまりにも即答するので一至は驚いた。 「私…誰かに必要とされたの‥凄く久しぶりなんだもん…」 「あ」 小春に聞いた過去話を思い出した。 「バスケット部なら‥両親の事…何にも言われないだろうし‥それに──」 「それに?」 「入学式の時と今日のお礼‥だから…」 「へー‥って俺に対する?」 「うん。だって琴乃先輩の頼み断ったら…高梨くん‥困る、でしょう?」 確かに。あの先輩は確かに美人で仕事も出来ていいマネージャーだが、怒ると半端なく怖いのだ。だから部長も顧問も琴乃には逆らわない。 「それに‥マネージャーってやってみたかったから…だから嬉しい」 「そっか‥」 莉音の嬉しそうな表情を見て一至も笑ったが内心複雑だった。 (飯塚先輩が葉山を助けたみたいじゃね?) 事実そういう事になるが一至はまあいっかと思う事にした。
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