31人が本棚に入れています
本棚に追加
部室に残されたのは莉音と賢人のみ。まだそんなに親しくない先輩と残されるなんて普段の莉音ならさっさと部室を退散したのだろうが、今日は“普段”とは違った。
(琴乃先輩と…高梨くんって──何であんなに仲良しなのかな‥うらやましい…)
そう思った半面、莉音は少し怒っていた。胸がムカムカして何かをやっていないと誰かに八つ当たりしてしまいそうな勢いだ。
(私と…じゃなくて先輩といる方が楽しいのかな、高梨くん──)
そう考えると胸が痛くてイライラする。莉音はいつの間にか無意識に部長に背を向けて頬を膨らませて部室のドアをじーっと見ていた。
「気になる?」
「──えっ?」
「一至と琴乃姫の事。何かヤキモチ妬いてるみたいだから」
「ちっ、違いますっ…」
賢人に唐突に問いかけられ莉音はぶんぶんと首を横に振った。
「私は…友達として、心配してるだけですから‥っ」
「ふーん?まあ‥俺としてもちょっと心配なんだよねぇ…」
「へっ?何が…ですか?」
「キレると暴走するから」
(だ、誰の事だろう…?)
聞いてみようかと思ったのだが、賢人の様子がいつもの穏やかな感じではなく全身からいつもと違うオーラを感じたので莉音は黙っておく事にした。
「自分の気持ちに素直に生きないとねぇ──あ、5分休憩していいよ?お疲れさま」
「お…お疲れ様でした‥?」
またいつもの空気に戻った賢人にきょとんとしながらも莉音は部室を出て休憩する事にした。
(何か…避けられてる気がする‥)
ウォータークーラーがある体育館の外で莉音は考え込んだ。
避けられているというのはもちろん、一至にだ。あの踊り場での事件からもう1週間程たつのだが、一至とまともな会話をこの1週間ずっとしていないのだ。莉音は勇気を出して“おはよう”と言うのだが、対する一至の返事は“おう”とか“ああ”とかの短い言葉だ。
(嫌われちゃったかなぁ‥私…迷惑かけてばっかりだもんね‥)
「──なの、何でだと思う?」
「俺は別に…」
莉音がしゅんとしていると聞き慣れた声が聞こえてきた。耳を澄ませてみるとどうやら一至と琴乃の声のようだ。柱の影に隠れて莉音は話に耳を傾けた。
「私の気持ちに気付いてるクセにあの態度は酷いんじゃない?」
「でも先輩達の目もあるし‥」
最初のコメントを投稿しよう!