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にっこり微笑まれて怒りの勢いで仕事をしようとしていた自分が莉音は恥ずかしくなった。
「マネージャーの仕事には慣れた?」
「は、はい‥何とか…」
「そっか、なら良かったよ」
翔太に問いかけられて莉音はおずおずと頷いた。この瀬戸翔太という人物は物腰も少し柔らかくて、1つ年上なだけなのにどこか大人びた先輩だ。頼れる“お兄ちゃん”のような人物で、莉音がマネージャーになってから何かとかまってくれるのだ。
「まあだいたいコートの整備、試合の準備は俺達2年生がやるんだ。あとは基礎練習を1年生とやったり…2年生は中立の立場だからさ、2年生の選抜メンバーは3年生とレギュラーメニューの練習やったりもするんだ。その間にマネージャーがやってる事はとりあえずスコアを記録する事とストップウォッチを持って試合の開始や終了を知らせる事。あとたまに審判もやってるね」
「そう、なんですか…?」
「大変だと思った?」
「はい──あ…」
思わず即答してしまって莉音は恥ずかしそうにうつ向いた。翔太がクスクス笑っていた。
「自分に素直なのはイイコトだよ、君なら出来るから頑張って?」
「あの‥スコアってシュートの回数だけ書けばいいんですか…?」
「あれ?飯塚先輩から聞いてない?」
「ちらっとスコアの説明はしてくれたんですけど…顧問の先生が呼んでるからあとは2年生に聞いてって言われてしまって‥」
「あー…なるほど。どうりでこの場に飯塚先輩がいないわけだ。じゃあ──微力ながら、俺が説明するよ?最近までやってたから結構わかるハズだし」
「あ、ありがとうございます…」
スコアノートを開いて莉音は翔太の説明を真剣に聞き始めた。
(瀬戸先輩…何であんなに葉山に接近してんだよっ!)
「1年代表さん、顔が鬼みたいよ?」
「なっ?!」
一至がバッと振り返ると後ろには琴乃がいた。
「ダメじゃない、代表さんがサボってちゃ」
「サボってはないですよ、掃除の片付けをやってたんです」
「片付け?」
その言葉に琴乃が足元を見るとちりとりに集められたゴミやモップが片付いてないモノが散らばっていた。
「なるほどね‥だから倉庫にいるのね?」
「──先輩、戻らなくていいんですか?」
一至の言葉にモップを持った琴乃の手が止まる。
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