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「──私がいなくても葉山さんがいるから大丈夫よ」
「そうじゃなくて──部長にまた絞られますよ?」
「あんな人…どうって事ないわ。そんな事より、早く片付けましょう?あなた一人じゃ大変でしょう?」
倉庫はぐちゃぐちゃになったままだったので一至は琴乃の言葉も一理ある、と思って無言で片付けを再開した。
「ここからコートはよく見えるのね?」
「だったら何ですか?」
「葉山さんを見てたでしょう?」
「なっ…別に俺はっ‥」
「うらやましいわ、葉山さんが」
「は?」
急にこの先輩は何を言い出すんだか。一至は思いきり眉を潜めてしまった。
「葉山さん、可愛いものね?大人しくて…控え目で‥しかも凄く純粋そう。私とは正反対だわ」
そう言いながら何故か一至に琴乃は近寄ってくる。この先輩の行動はいつも突発的でよくわからないのだ。やがて一至との距離がなくなると、琴乃は一至の頭を優しく撫でた。
「あと半年もしたらあっという間に身長追い越されそうね?」
「成長期ですからね?」
「“あの人”も…1年生の頃は私より小さかったのよ?」
「へぇ‥?」
『ガチャッ』
「ボールどこに──あ…」
「葉山…?」
「あら葉山さん…どうかしたの?」
説明が一通り終わったのかボールを倉庫に取りに来た莉音は絶句してしまった。
「あ、あの‥ボール…ボールを持って来てほしいって瀬戸先輩に言われたから…その‥倉庫に取りに来たんですけど──その‥っ…お、お邪魔しました‥っ…」
パタパタっと莉音は慌てて倉庫から出ていった。
「あら…何か誤解させちゃったようね?」
「葉山っ!」
一至が追いかけていこうとすると琴乃は一至の腕を引っ張って止めた。
「何するんですか、先輩!」
「“あの人”が追いかけてったわ」
「あっのタラシめぇえっ!!」
「行ってらっしゃい?」
「何言ってるんですかっ?!」
一至は怒りながらも琴乃の手を取って倉庫から走り出した。
「先輩がまぎらわしい事したせいでこうなったんだからきっっちり仲直りしてくださいね?」
マジギレしたのか一至が笑っているのに声色は笑っていない声を漏らして琴乃をぐいぐい引っ張って外へと出ていった。
「うぅ‥」
莉音はごしごしと自分の目を擦った。
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