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勢いで外に出た所までは良かったのだが、どうしていいかわからずに中途半端に裏庭にあるベンチに座ってぐすぐす泣いてしまっていた。情緒不安定というのはこういう事を言うのだろうか。――涙が流れてしまう理由が自分でも解らなかった。ただ琴乃と一至が接近してるだけで胸が苦しくて、悲しくて、切なくて涙がじわっと出てきたのだ。
「何で涙が出ちゃうんだろ…」
「大丈夫?」
聞こえた声に振り返ったらそこには賢人がいた。何で部長が…?と莉音が首を傾げていると、ストンと隣に座られた。
「何か…あったの?」
「い、いえっ…その‥琴乃先輩って高梨くんと…つ、付き合ってるんですね」
「誰がそんな事言ってたの?」
「あ、いえ…私の推測‥です」
「推測?」
「休憩の時に二人が何か‥親密な感じがして…それに倉庫の中で琴乃先輩が高梨くんに‥抱きつきそうでしたし‥」
『バキッ!!』
「琴乃姫が?抱き…?へぇ‥?」
ベンチの手摺が真っ二つに折れた。さすがに鈍感な莉音でもこれには驚きを隠せなかった。折ったのは紛れもなく賢人だ。賢人はにっこりと笑っているのになぜだかオーラが先程部室で感じたあの“恐い”空気をしている。
「い、いえ…わ、私の思い違いかも‥しれないですっ」
「ふーん…そう?」
(──か、帰りたい…っ‥)
慣れない状況にまた涙が出そうになる。すでに目が潤み始めていたのだが、莉音はふるふる首を振って部長は怒ってないんだと思い込んで耐えようとした。
「何泣かしてんだよ、けん兄ぃの女泣かせ」
「人聞き悪い事言うなよ…俺が来た時にはもう泣いてたぜ?」
目の前に現れた一至につかつかと近寄るとグッと胸元を掴み上げてソっと呟いた。
「さて問題…本当に莉音ちゃん泣かせたのは誰かなぁ?口の軽くていつも冗談めかしてる俺?それとも──お節介でお人好しが災いしたお前?どっちかな?」
「な‥っ?」
賢人には全てがお見通しのようで一至の表情が固まった。
「交換条件だ。二人っきりにしてやるからお前は真実をちゃんと教えてやれ」
「な、なんだよそれっ!」
「それともう1つ…琴乃はどこだ?」
「…花壇のトコにいるよっ」
「サンキュ。じゃあ10分したら戻ってこいよー?」
「けん兄ぃもな!」
それだけ告げると賢人は花壇の方へ駆け出した。
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