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(──ほっとけないヤツだな…)
莉音が走っていったあとを見つめながら一至は思った。待たせるわけにもいかないしさっさと行ってやろう、とウォータークーラーの水を飲みだした。
「なあ…部長と琴乃先輩…付き合ってるのか?」
「ぶっ!!」
思わず飲み込もうとした水を勢いよく吐き出してしまった。一至が恐る恐る振り返るとそこには肩を震わせて笑う翔太がいた。
「そんな漫画みたいな反応するなよ?思わず笑いそうになっただろ?」
(今あからさまに笑ってたじゃねぇかよ!)
一至の頭をポンポンと撫でながら笑う。この先輩は苦手だ。莉音にとっては優しい“親切な先輩”なのだろう。だが一至にとっては“表情が掴めない苦手な先輩”なのだ。
「で?付き合ってるんだろ?」
「何でそう思うんですか?」
冷静を装いながら一至は聞き返す。確かにあの2人が付き合っているのは実は僅かな人間しか知らない。例えば副部長。部内きっての頭脳派で、唯一賢人の理解者だ。賢人も親友だ、と豪語していて何事も話してきた流れで教えたらしい。あとは賢人の従兄弟である一至と先程一至が事情を話した莉音しかいないはずだ。
「だって花壇の所で見かけたし…抱き合ってたの見たからな?」
「へぇー…で?俺にワザワザ何で言うんですか?」
「お前なら知ってそうだと思ったから…かな。あははっ」
(あはは、じゃねぇよっ!)
図星であるのは確かだし一至は何も言わなかった。
「話変わるけど‥お前って葉山さんとどういう関係?」
「はぁ?…友達、ですけど?」
今日は厄日か!と内心一至は突っ込んだ。慕っていた従兄弟の黒い部分を垣間見たり、好きな女のコには先輩と付き合ってると勘違いされるし…と。
「ふーん…じゃあ俺が入り込むスキはまだあるわけか」
「はい?」
「お前は“友達”俺は“優しい先輩”だもんな?」
翔太の言いたい事がよく解らない。一至は首を傾げた。
「俺…葉山さん──莉音ちゃんの事、好きだから」
「――なっ…?」
「だからこれから攻めてくからヨロシク」
翔太は一至の方を見て自信ありげに笑って“じゃっ”と短く手を振るとスタスタと優雅に去っていった。
「なんだ‥ありゃ…?」
ポツリと呟いた一至は宣戦布告された事にこの時はまったく気付いていなかった。
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