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少し緊張が解けたのか女の子は柔らかく微笑んで頷いた。
「じゃあ改めて…受付はどこにあるんだ?」
「あそこに…昇降口があるからそこでやってるよ‥?」
「やっと着いたぜっ…はぁー‥何とか間に合いそうだな」
時計を見るとまだ少し余裕があるようで一至はホッとして座り込んだ。
「そういやお前…何で受付終わってんのに外にいるんだ?」
「えっ?えっと…人‥待ってて…」
「人?」
「“助太刀に行ってくる”って言って行っちゃって…」
「なんだそりゃ?」
「“待ってて”とも言われたから…」
「だからってすんなり木の下で待つヤツがあるか!お前の両親アホか?」
「りょう…しん?」
「今日入学式だろっ?両親が来てるんじゃないのか?」
「…いよ」
「は?」
女の子の澄んだ声に鋭さを感じて、一至はドキッとした。次の瞬間、女の子は寂しそうに呟いた。
「来てないよ、私の両親。──すごく忙しくて‥私の授業参観とか…そういうのに参加した事ないの」
「な…っ」
「あ、でも…保護者代理はちゃんと来てくれてる‥よ?私は…その人に待ってて言われたから‥待ってたの」
控え目に付け足すように女の子は笑って言う。一至は自分の発言に後悔した。
世の中には色んな家庭を持つ子供がいるのだ。自分のように必ずしも両親が揃って行事に参加してくれる人もいれば、母子家庭や父子家庭といった特殊な家庭事情で片親しかいない子もいるだろう。
「──ごめん」
「へ…?」
「無神経だった」
「い、いいよ‥もう慣れてる事だから…」
「慣れ?」
「両親は‥もう小学生の低学年の頃位かな…それぐらいから会話した事ないの…仕事一直線で‥帰ってきても私が寝てる時とか夜中とかで──まともに顔を見てないの」
女の子は一至に背を向けて空を見上げて懐かしむように呟いた。今どんな顔でそんな話をするのだろうか。
「──受付、案内するね…?」
「あ、ああ‥」
振り向いた女の子はにっこり笑っていたので一至はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「はい、1年3組ね?もうすぐ式始まっちゃうから急いでね?」
「どうも…」
親切にカーネーションをつけてくれた先輩にペコッとすると一至は女の子が待つ下駄箱へと入った。中々綺麗な昇降口で下駄箱の数が小学校よりも少し多い。
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