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女の子は丁度傘立てのある所で最初に会った時のように凛とした真っ直ぐなあの姿勢で立って待っていた。一至に気付くとにっこり笑って傍に来た。
「受付終わったんだ…何組になったの‥?」
「3組だって。ここに名前書かれてるぜ」
ようやく手に入れた入学式のしおりをパラパラ捲ってクラス名簿のページの自分の名前を指しながら一至は説明した。
「高梨…一至くんって…いうんだ?」
「ん?ああ…言ってなかった?」
「聞いて、ないよ?…私の名前も‥知らない…でしょ?」
「──確かに。聞いた覚えがないな?」
一至は女の子の言葉にこくりと頷いた。女の子が一至のひらいたしおりを指で辿ると同じ3組の列にあった“葉山莉音”と書かれた名前を指した。
「私は‥葉山莉音(はやまりおん)っていうの‥1年間よろしくね、高梨…くん?」
はにかんで柔らかく微笑みながら莉音は名乗った。心を開いた人間には真っ直ぐに笑うんだ…と一至は心の中で思った。
「じゃあ…私は戻るね?もう待ってた人来てるかもしれないし‥じゃあ」
莉音がそのまま外へ出ようとして一至に背を向けた。だが、一至は小走りしようとした莉音の手首を無意識に掴んでしまっていた。
「どうしたの…高梨くん‥?」
「わ、悪いっ」
自分でも驚いたのか一至は慌てて手を離した。何をやっているんだ、自分は…と恥ずかしさから少し頬が赤くなった。
「その…せっかくお前が自己紹介してくれたのに‥俺だけやらないのはふ、不公平だろっ?」
「え…?」
「だから!俺だけ不公平だから自己紹介させろって言ってんのっ!」
照れたのか一至は一気に真っ赤になって叫んでいた。その様子に莉音はあっけに取られていたのがやがて耐えれなかったのか控え目ながらも笑いだした。
「ふふっ…照れ屋さん、なんだね‥?何か…私みたい」
「う、うるせぇ…こんな恥ずかしい事‥今までやった事ねぇんだよっ」
「じゃあ…自己紹介して?」
意外としたたかなのかもしれない、と一至は心底思った。そして、こほんとわざとらしく咳払いすると真っ直ぐに莉音を見た。
「俺は…高梨一至。バスケ歴6年!趣味も特技もバスケだ!よ‥よろしくな、は…葉山?」
やっぱり照れるのか一至は照れ隠しに頭を掻きだした。莉音はにこっと笑ってこっくりと頷いた。
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