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「お嬢様ーっ!お嬢様、どちらにいらっしゃるんですかぁあっ!」
少しだけ一至と莉音が仲良くなった所で外から聴こえた声に二人は反応した。
「──今の…葉山の知り合いか?」
「知り合い、なのかな…ウチにいる‥執事さん、なの…」
「執事?!」
この時代に漫画のように執事を抱えたお嬢様が存在したとは。一至は昇降口の窓から物珍しい執事をまじまじと見だした。黒い綺麗なスーツを着た黒髪の青年で3、4歳くらい年上に見える。昔見た漫画の執事というのはもっと年老いた人だった気がする。
「──あ」
「どうかした…?」
「何か‥お前に気付いたっぽいぞ?こっちに向かってくる」
窓の外を指してやると鬼のような形相をして執事の青年があの桜の木の方からずんずん歩いてきた。青年は昇降口に辿り着くとぜえぜえと肩で呼吸を繰り返した。
「聖(ひじり)さん‥大丈夫…ですか?」
「っ…“大丈夫”ですって‥?それはこちらのセリフです!何を考えてらっしゃるんですか、お嬢様!待っててください、と言ったでしょう?もし誘拐されたり変な男に言い寄られたりとかしたらどうするおつもりだったんですかっ?!し・か・も!」
ビシッと言わないばかりの勢いで聖は一至を思いっきり指差した。いきなりの事に一至は首を傾げた。
「しかも…俺がちょっと親切心を出して人助けしてる間に‥こんな器の小さそうな男と一緒にいるしっ!彩音奥様や旦那様になんて言えばいいか…っ!」
「“器が小さい”は余計だ、失礼だなっ!」
どうやら聖という青年は“お嬢様バカ”のようだった。一至はカチンとしながら思った。そんな聖が延々と“俺がお嬢様をどれだけ大切にしてるか”を語る中でふと、莉音を見るとうつ向いて唇を噛み締めていた。
「──って」
「お嬢様?」
「葉山‥?」
「聖さん‥もう帰ってください…お母さん達に──“あの人達”に言いたいなら言えばいいです‥“莉音は不良になった”とでも言えばいいですっ…」
莉音は決して大きくはない声で泣きそうな顔で叫ぶと校舎の方へと走っていった。
「お、おい葉山っ?待てよっ──」
傷付いた聖を置いてくのは気がひけたのだが、一至は莉音を追って中に入った。莉音は1年生の階に当たる2階の階段の隅で座ってうつ向いていた。
(何か──目が離せないヤツ…)
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