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落ち着く暇もなく、自宅の電話がリビングに響き渡った。
「忙しいねぇ」
暢気に言いながらキッチンに向かった晴希を尻目に、直人は受話器を取った。
空が夕闇に染まり一等星が瞬く頃、真実は住んでいたマンションの近くにある公園のブランコに揺られながら、深い溜め息をついた。
うなだれて、数分前の記憶をリプレイしていた。
『入居者が決まった!?』
『えぇ、本当なら掃除とか、色々しなきゃいけないんだけどね、異例のことだけど、明日の朝イチで荷物が入る予定だよ』
『ちょっ…! それ! 何とかならないんですかっっ』
『そう言われてもね……。部屋の契約もすんでるし……』
成人しているならまだしも、相手が未成年なら相手にはできないといった表情で管理人は部屋の奥へ姿を消した。
無情に閉じた管理人室のドアの前で立ち尽くし、真実は愕然としていた。
無意識に踵を返し、戻ることのできなくなったマンションから遠ざかっていた。
いつだったか、一人暮らししたいと母親に頼んだことがあった。
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