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久しぶりに会った直人と酒を飲むつもりで来た晴希は、再び目にした同じやり取りに笑いを噛み殺した。
「人生そんなに甘くないって、ちょっ…お母さん! 見ず知らずの男の人との同居って、甘いも辛いもないで……!」
一方的に切られたようで、真実は眉間に深いシワを刻んで携帯の画面を睨んだ。
溜めに溜めて息を吐くと、真実は直人に向き直った。
刺さるような視線を余裕で受け止めて、直人は言葉を待った。
音のない空間に、緊張が走る。
これを悪夢と呼ばずして、何を悪夢と呼んだらいいのだろう。
当人たちの了承も得ずに、早く片付けろと言わんばかりにリビングを占領する段ボール。
互いに、受け入れられない現実を前に同じ事を思っていた。
「荷物、数日中に取りに来ますから」
怒りを足音で表して、真実は携帯を握り締めて部屋を後にした。
「直ちゃん、同棲相手できちゃったの?」
呑気に冗談を言う晴希を横目で睨んで、直人は深い溜め息をついた。
「笑えない冗談だ」
吐き捨てると、直人は乱暴に取り出した煙草に火をつけた。
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