Ⅰ.賞金稼ぎの一味

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 方々から逃げてきた村人たちの話を一つにすると、賊は北の外れにあるクロイル伯の別荘に押し入ったらしい。  村の外へ繋がる二本の峠道は共に塞がれ、漁に使う小船も全て流されてしまい、外へ助けを求めることもままならない。  村への被害はまだ報告されていないが、それも時間の問題であろう。絶望的な状況ではあるが、村を預かる者として、ポールは出来る限りの対応策を考えねばならなかった。  彼はようやく広場の外れを歩く捜し人の姿を発見し、呼び止める。  駆け寄ってくるポールに気づき、小柄な彼女はにこりと社交的な笑みを浮かべた。   「こんにちは、村長さん。慌ただしいことですわね」   「ああ、どうも。今、君のところに宿泊している客が賞金稼ぎだって噂は、本当かね?」    ポールは挨拶もそこそこに切り出す。    リョーは村に一つしかない宿屋、“さえずり荘”の女主人だった。  こんな辺鄙なところで経営が成り立つのかと首を捻る者もいるが、周辺の村々にも宿がないせいか、利用客は少なくない。ほとんどが常連客のようだったが、女一人が食うに困らぬ程度には繁盛している。   「まあ、どこでそんな噂を?」   「本当かどうかと聞いとるんだ」    おっとりと返す彼女に、ポールは苛立ちを隠せない。  リョーはまだ三十を一つ二つ出た頃で、老齢に差し掛かったポールとは親子ほどにも年の差がある。しかしポールは、故意なのか天然なのかも判然としない、人を煙に巻くような彼女の言動が苦手だった。   「本当よ。そうそう今ね、ケイトおばさんの畑でお芋を分けてもらったの。焼いて食べさせようと思って。村長さんも一緒にいかが?」
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