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『ハイ、カット。
いったん休憩。』
明らかに現場の空気は白けてた。
ADがガウンと水を片手に女優に駆け寄る。ケイゴにいちべつをくれながら…。
女優といっても何処にでもいる二十歳そこそこの、姉ちゃんにセーラー服とルーズソックスを履かせただけの…。
『ケイゴよ…。どうしちまったのよ?
竿師No.1のおめぇがよ。』
困り果てた顔で監督が肩を叩く。
『すんません。
迷惑かけちゃって。』(たかが裏ビデオじゃねえか…)
口には出せないが表情に出た。
『あら?ケイゴ、不満なんか?代わりの奴はごまんとおるで。
なんやったらそこのボウヤにやらせようか?さっきからもう天井向いちゃって大変よ。』若いカメラアシスタントが顔を赤らめて、腰をひく。
『起たないなら、しょうがないよな。』
『ちょ…ちょっと、待ってよ。五分貰えたらもうバッチリやから。』
『おめぇ、私情を挟んじゃ竿師なんてデリケートな仕事出来ねぇよ。』
『……私情って。
そんな言い方ないんじゃ…。』
『遊びじゃないんよ。ビジネス。わかる?
てめぇの感傷に付き合うほど、暇じゃないんよ。解るか?ガキ。』ケイゴは唇を噛んだ。血がにじむほど。
『おっさんよ。
こんな仕事出来る奴他におるなら、さしてみいや。』
ケイゴのそれは見事に男になってた。
怒りがすべて集約されたの如く。
女優が驚きの表情から物欲しげな顔に変わった。
『よっしゃ、休憩終了。もたもたせんと、はよ持ち場につかんかい。』
現場が静寂に変わった中、ケイゴの荒々しさと、女の甘美な悲鳴だけが響き渡った。
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