家族

4/9
前へ
/51ページ
次へ
隊舎を出て30分ほど路上に沿って歩くと、黒瀬と赤星が生まれ育った故郷の町、゛夕日町゛が見えてくる。 木造の住宅街に包まれて子供達がチョークで道路に落書きをして遊ぶ風景はいつもの事だ。 「久しぶりだなぁ。町に帰って来るのは。何日ぶりだ?」 「えっと…この間帰ったのは6月下旬のおふくろの誕生日だったから…約1ヶ月ぶりかな。」 道路で遊ぶ子供達を眺めながら、黒瀬と赤星は横に並んで歩いていた。 「あ、兵隊さんだ!」 「兵隊さんこんにちはー!」 子供達が黒瀬達に気付くと、元気な声で声をかけてきた。 黒瀬は微笑みながら手を振る。すると、赤星が悲しそうな顔をしてうつむいた。 「………あの頃は本当に良かったなぁ…。今のこの世界の事を何も知らないまま無邪気に笑い合っていて…俺達の運命も知らないままで…。」 赤星が子供達を見続けながらふと呟いた。 「まぁ確かにな。でも子供はそんな事知らなくてもいいんじゃねぇか?子供はただ遊んで、元気に育てばいいんだよ。俺達の運命なんて知った所で邪魔になるかも知れねぇ。」 「………そうだな…。」 赤星が悲しそうな顔で答えた。 「…でも、俺達が居たって事も知っていていいんじゃねぇかな…。」 「………もうちょっとでかくなれば、誰かが教えてくれるだろ。今はまだ早ぇんだよ!」 「痛てっ」 黒瀬が赤星の尻に回し蹴りを喰らわせた。 「………そっか、そうだな…!」 赤星は笑いながら自分の尻をさすった。 二人は笑い合いながら、赤星の実家へと足を進めた。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

204人が本棚に入れています
本棚に追加