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「あれ? カイン、早かったな」
人ごみから流されるように戻ってきたカインに、ラスターは声をかけた。
いつも通りの笑みを浮かべたまま、カインは頷いた。
「うん。ちょっとしたことだった」
――そう、ちょっとしたことだ。
繰り返すように、確かめるように呟いて、カインは輪の中に戻っていった――。
黄昏の色彩を、墨汁が黒く染めていく。
沈みかけている太陽を背に、ルイは指揮者のように手を動かしていた。
「気に入らないなぁ。気に入らないなぁ。カインは、カインは僕のものなのになぁ」
刺し殺すように鋭い視線が、遥か下のショッピングを楽しむ八人に向けられていた。
刃物の切れ込みを思わせる笑みを浮かべた口元からは、物騒な言葉が飛び交っている。
「許せないよねぇ。絶対に許せないよねぇ。いたぶるべきだよね、失うべきだよね……。カインだって、性懲りもなく……まぁ」
ニタァ、と気味の悪い笑みを浮かべる。
「友達は夏期休暇に王都旅行だもんね。ちょうどいいやぁ♪ その日に戦争、そして僕は親友に」
影が落ちた瞳に、狂気が孕んでいた。
鼻歌混じりに呟きながら、"それ"を思い浮かべて、楽しそうにしている。
「くくく、あはは! 楽しみだなぁ……。ふふ、おかえり」
沈む夕日を背に、ルイは八人を見下してせせら笑っていた。
――運命は廻り始めた。
――老朽化した歯車がキリキリと……。
第一章 ―運命、出会いと共に―
《完》
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