第二章 ―信念、想いと共に―

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  デューク・アルベルトは、ここ、商業都市バロル王立アカデミーに奉職している騎士科の教師である。 筋骨隆々とした巨大な体躯を生かして、普段は生徒の指導という役を買っているが、意外にも生徒からの人望は厚い。 土の魔法を得意として、魔法学でも臨時教師を務めるほどだ。 彼は、白い口ひげを揺らした初老の男――校長の前に居た。 「王都より火急の伝令です」 デュークは、校長に便箋を手渡した。 その便箋に、校長の表情が引き締まり、眼光が鋭くなる。 便箋を開いた校長は、重々しく呟いた。 「……デストロイ帝国より宣戦布告。ちょうど生徒の夏期休暇か」 「もう少し下の方の文章をご閲覧ください……」 「……っ! 徴兵制度の実施じゃと? 各学園の、男子生徒で四年生及び三年生を徴兵制度対象とする……?」 王都はそんな素振りすら見せなかったのに、急に徴兵しろと命を下した。 そして、デュークは静かに怒っていた。 「生徒を戦場に駆り立てるなんて、私は納得できません!」 デュークは叫んだ。 彼は、指導役という嫌われ者を買ってでるが、誰よりも生徒の身を案じてのことでもある。 本人は知らないが、それは不器用ながら生徒にも伝わっていた。 「それに、今の軍事力では……っ!」 「デューク・アルベルトよ」 校長は窓の外を見つめて言った。 その表情には、何の色も浮かんでいない。無表情だ。    「わしらは、結局上に従うしかない。それに、必ず戦場に駆り立てる訳ではない。可能性にすがるしかないのだよ」 淡々と紡ぐことに、怒りを覚えてだろうか。 デュークは怒りを抑えることができなかった。国にも、無力な自分にも。
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