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引きずり出されるように眼を覚ました。
眠っていたというより、気絶していたような不快感がある。いや、実際に気絶していたんだ。
しかし、痛みは薄れていた。
――ここは、どこだろうか。
どこか大きいベッドに体を寝かせていて、まったく見覚えのない場所だった。
そして俺が探っていた時に、タイミング良く部屋のドアが開いたんだ。
銀髪の髪で、サファイアブルーの瞳をした少女が、こちらを見るなり微笑んだ。
当時は感じていなかっただろうが、少女は天使だった。
異論は受け付けない。
「怪我は大丈夫? お医者さんに頼んで、治癒術もかけてもらったからね」
少女が重そうに持っているトレイからは、食欲そそる匂いが漂っていた。
それが鳥の丸焼きとパンと水だと気づくなり、涎が溢れそうになった覚えもある。
「治癒術は自己回復能力を高めるだけだからね。これ食べて元気になってもらわなきゃ」
それをベッドの近くに備えられたテーブルに置いた。
今にでも手をつけたい気持ちはあったが、没落といえど元貴族だ。礼儀を踏まえて、まずは質問することにした。
「君が……僕を?」
「そうだよ。見た時は眼を疑っちゃった」
「えっと、その……ありがとうございます」
「どういたしまして」
本来ならきちんと礼をするべきだが、子供の俺には形式的なお礼しか言えなかった。
出された食事を、理性を抑えながらも丁寧に咀嚼したのは、あれが初めてだったかもしれない。案外に辛いものだ。
「ご馳走様でした」
「それで、君どうしてあんな所に?」
「……僕はね、没落貴族なんだ。あそこしか行くところが無くてさ迷ってたら、たまたま」
「……ごめん」
当時は慌てて、君のせいじゃないよ、と呟いた。
けれど今なら、間違いなく抱きしめただろう。
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