■魔法の惚れ薬

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  ――来るべき痛みがこない。 代わりに、トンッと、何かを打ち付けたような音がした。 続いて、カランっと金属音が響く。 それと同時に、目を閉じていたラスターに何かがのしかかった。 「え……って、リリス」 のしかかったものは、気絶したリリスだった。 その後ろには、艶やかな黒色の髪をなびかせている青年――カインが笑っている。 彼は相変わらず笑みを崩さない。 今の彼は、ラスターにとっての救世主だった。 「で、痴話喧嘩にしては本気っぽかったけど、何してたの?」 カインはニッコリとした表情で見つめていた。 もちろん、「痴話喧嘩じゃない!」とラスターは否定をする。 ラスターは受け止めたリリスを草の上に寝かせて、立ち上がった。 そして、これまでの経緯をカインに話した。 「かくかくじかじかで――その魔法の惚れ薬を飲んだせいで、こうなったんだ……」 重いため息。 その心中を察してか、カインは苦笑している。 「んー、これは時間が経……」 しかし、カインは急に言葉をきって、ニヤリと笑った。 リックの時と同じ、何かを企む笑み。 その表情は、太陽の光こそ当たっているが、陰りができているだろう。 聞こえなかったラスターは小首を傾げる。 「え? 今なんて?」 「ラスター……。これは……」 カインの表情が段々と曇っていくのを、ラスターは見た。 ――いつも微笑んでいるはずの彼の表情が。 「ま、まさか……命に関わるとか……?」 「……言いにくいが、そうなんだ。ある事をしなければ、後数時間でリリスは……」 段々と小さくなるカインの声に、ラスターは自分が震えていると理解した。 ――そうか。リリスは死ぬとわかっていたから、俺を……。 とんでもない解釈である。 「ある事ってなんだよ?! 教えてくれ! カイン!」
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