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屋敷に入ると、ラスターは開いた口が塞がらなかった。
入るなり、吹き抜けのエントランスが印象的で、開放感に溢れている。
大理石の床に敷かれた高級そうな絨毯に、一般人にはその価値すらわからないのだろう調度品が並んでいる。
「あわわわわ」
リリスは明らかに動揺していて、落ち着かない様子で辺りを見回していた。
そこに一人の従者が現れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま。トクナガ」
トクナガと呼ばれた初老の男は、恭しい一礼を施した。
顎に白い髭を蓄え、優しそうな男性だ。
燕尾服をビシッと着こなし、邪魔な白髪はオールバックにしている。
「そちらの方々は?」
「私の友人です。実は事情があって……」
小首を傾げたトクナガに、これまでの事情を話すことにした。
レイナがそれを説明し終えると。
「なるほど。でしたら、空き部屋をご自由にお使いください。それと申し訳御座いませんが、旦那様方は出掛けておりますので、ご挨拶は後程に」
トクナガは畏まって、五人に恭しく一礼をした。
釣られる様に、慌ててラスターとリリスとリディアが頭を上げる。
その様子にトクナガは小さく微笑むと、「着いてきてください」と告げて歩き出したので、六人もそれを追うように着いて行った。
部屋に向かう最中。
「不在……とうとう貴族の方にも戦争についての召集が……」
レイナの消え入るような呟きに、トクナガは何も言わずに表情だけを曇らせていた。
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