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「ですから残留組は当日、私が作戦内容を伝えます」
アルスの言葉に、残留組のリリスとリディア、アミティエは頷いた。
「そして塔へ行く防衛組ですが、目的達成よりも命を重視して下さい」
淡々と言いながら、アルスは右手を差し出した。
掌には、まるで光を吸い込んでいるような漆黒の宝石が乗っている。
不思議そうに、リリスは覗き込んだ。
「これって、私やアミティエさんのような……?」
「はい、魔石といいます。魔法の術式が刻まれていて、魔力を込めたら発動する様になっているんです」
その魔石を、リディアは羨ましそうに見つめていた。
魔石は、リディアには作れない。
リリスやアミティエだからこそ使える技術ではあるが、実際には才能を必要とする技術だ。
その魔石を四個取り出して、アルスは防衛組の四人に配った。
「空間移動の術式が刻まれています。危ない時には、迷わず使ってくださいね。詳しい作戦内容は当日、シオンの判断で動いてください」
四人が頷いたのを確認して、アルスは座席を立ち上がり、身を翻してドアに向かった。
「私達は戻ります。シオン、行きましょう」
シオンは「じゃ、またな」とだけ呟いて、アルスと共に部屋を出ていった。
話す時間はないのか、というラスターの質問に、二人は悲しそうに笑っていた。
「戦争まで……一週間」
リリスは曇った表情で呟く。
王都に仕える騎士や軍人となるため、王立アカデミーに入学して、『覚悟は出来ている』と思っていた。
しかし、こんな形で戦争に直面してから、自分の覚悟が足りなかった事を思い知っているのだ。
まだ少女と呼べる年齢のリリスには、厳しいことだった。
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