■決戦‐残留組‐

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  下町に着いた三人は、目の前に広がる光景に驚愕した。 ケルベロスは、三つの頭がそれぞれ別の動きをしている。 異常に発達した牙と、灼熱を吐き出す力を持っている。 そして大きさは、住居三つ分といったところだろうか。とてつもなく巨大な体躯を持っている。 周りはケルベロスによる炎に包騒然とし、刃を向ける者達はいとも簡単に蹴散らされ、魔法で援護する者達の魔法も全く効かない様子だった。 「あれがケルベロス……」 「本でしか知りませんでしたけど……凄い威圧感です……」 小さな恐怖が湧き上がる。 しかし、耐え抜くことができる恐怖だった。 その時、リディアが詠唱を始めていた。 「――万物に宿りし生命、我々に聖なる息吹を再び」 今まで見た中で、遥かに大きく、それは負傷した兵士達それぞれを呑み込む魔方陣が、真下に展開された。 緑色の魔方陣――つまり回復魔法。 しかし、これだけの人数を回復させる魔法を、リリスは初めて目にした。 「セリカ・ベネヴィクションっ!」 ――その魔法は、間違いなく上級魔法。 魔方陣から放たれる優しい光が、負傷した兵士の傷を癒していく。 それにより一命を取り留めた兵もいたが、突然の出来事に兵士たちも驚嘆している。 そこにアミティエが大声で告げた。 「余裕のある兵士は、町の人と負傷者を誘導をして!」 アミティエの隣で、リディアは崩れ落ちるように膝を突いた。 大量のマナを消費したことで、全力疾走したかのように息が乱れ、立ち上がることもできないようだ。 一方、それを聞いた兵士の一部は、ケルベロスの圧倒的な差を理解していたため、素直に身を引いて市民の方へと向かった。
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