■温泉

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仁王立ちしている鬼神…、瞳からは光が失れている。 それと対象的に……、唇は弧を描いて切れ込んでいる。 それは凍った笑顔。 「……ラスターぁ」 心臓が大きく跳ねた。 全身から冷たい汗が噴き出す。 吸い込んだ息が喉の奥で音をたてる。 動けない、足が凍っている。 もう口も動かない、まばたきひとつできない。 喉を破りそうな悲鳴を圧し殺す。 否、押し殺されている。 今にも悲鳴はでそうなのに……でない! 「あはははははははははははははははは。 ……なにしてるの?」 奇怪な笑い声をあげて、次には恐ろしい程冷たく殺意のこもった声が静かに響き渡る。 だめだ……ここで屈したら! それが……俺の最後。 全身に今一度、言い聞かせた。 「こ、これは……、カインが……!」 みっともないほど声が震えて、まともに喋れない。 足がすくみはじめる。 虚勢をはったが、ダメだ! 何か、冷たいものが体に滲みでてくる。 感情を、脳を、心を、全てを麻痺させてしまうかのような……。 …タスケテタスケテタスケテタスケテ…。 「あははははははははははははははは 人のせいにするなんて、最低だよぉ? ねぇ、ラスター? うふふふふふふふふふふ、あははははははははは!」 これほど恐ろしい声を、人間は出せるのか……。 気が付くと、リリスの顔がラスターの眼前に広がっている。 心臓は爆発寸前、臓器が悲鳴をあげる。 頭の奥でリリスの声が響き渡る。 意識を保つのだけで精一杯だった。 ――ああ、もうダメだ。
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