■温泉

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  「ごめんよ、ラスター……。僕は君を忘れないからね。……まさか覗き穴を作ってたら、しきりが脆くて倒れるなんてなぁ」 一人岩陰に隠れていたカインは、目の前で泡を吹くラスターに黙祷をしていた。 「さ、今のうちに」 しかしカインは動けなかった。体が重い。 背後から、氷のように冷たい殺気を当てられている。 振り向くと、アミティエが仁王立ちしていた。 「ア……アミティエ! ここの温泉は良かったろ? 最高の……」 「ねぇカイン?」 虚勢を張ったカインの声が打ち消された。 しかし、リリスより冷たい邪気(雰囲気)を出すアミティエに冗談を言っている。 これだけでカインは賞賛に値すると言っても良かった。 「……私さ、前にも言ったよね」 アミティエがそう言うと、カインは力なく尻餅を付いてへたり込んだ。 以前にもカインは覗きをしたことがあった。 カインは感覚が鋭いため、既に理解した。 ――無事で済まない。   しかし逃げれば、死。 「怯えるなんてカインには似合わないよ?――吹き荒れる雷雨の閃光」 ――さようなら ふと、そんな言葉が木霊(こだま)したような気がする。 温泉の湯気だけは、彼らの命の灯火とは違い、永続的に揺らいでいた。
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