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――意識が朦朧(もうろう)としている。
ラスターは、夢に似た浮遊感覚を味わっていた。
そして、現実のように色素が鮮明に映し出されている中――世界は赤く染まっていた。
ラスターの立つ床にも、赤い絨毯が敷かれている。
……いや、違う。
脳だけは理解していた。これは絨毯ではない。
――死の裂け目から噴出す、真っ赤な水溜り。
ヒッ!?
悲鳴が声にならない。――ラスターの体は死んでいた。
熱いものが喉の奥から込み上げ、吐き出した。
真っ赤な水溜りが、水かさを増す。
お腹が焼けるように痛い。
銀色の何かがめり込んでいた。
ずっと向こうに並ぶ屍山血河の頂点に、一人の青年が立っている。
黒く染まっていく視界の中で、ラスターは青年の絶叫をぼんやりと聞いていた。
「お前が……! ――お前がぁッ!!」
青年が、屍を乗り越え、何かに向かっていく。
狂ったように何かを叫んで、ただ、金属音と、
「みんなの……父さんの!母さんの!」
ぐちゃり、という音が響いた。
いつまで続いたのだろうか。
ラスターの意識が薄れていく中、青年の絶叫が脳を揺らした。
「ラ……ターを返せぇぇぇぇええ!」
――え? 今のなま、え……は、……。
それが最後、ラスターの意識は引っ張られるように消えていった。
やがて世界が光に満ちて、ぐるりっと変わった。
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