■学園内大会本選前

2/14
前へ
/709ページ
次へ
――意識が朦朧(もうろう)としている。 ラスターは、夢に似た浮遊感覚を味わっていた。 そして、現実のように色素が鮮明に映し出されている中――世界は赤く染まっていた。 ラスターの立つ床にも、赤い絨毯が敷かれている。 ……いや、違う。 脳だけは理解していた。これは絨毯ではない。 ――死の裂け目から噴出す、真っ赤な水溜り。 ヒッ!? 悲鳴が声にならない。――ラスターの体は死んでいた。  熱いものが喉の奥から込み上げ、吐き出した。  真っ赤な水溜りが、水かさを増す。  お腹が焼けるように痛い。  銀色の何かがめり込んでいた。 ずっと向こうに並ぶ屍山血河の頂点に、一人の青年が立っている。 黒く染まっていく視界の中で、ラスターは青年の絶叫をぼんやりと聞いていた。 「お前が……! ――お前がぁッ!!」 青年が、屍を乗り越え、何かに向かっていく。 狂ったように何かを叫んで、ただ、金属音と、 「みんなの……父さんの!母さんの!」 ぐちゃり、という音が響いた。 いつまで続いたのだろうか。 ラスターの意識が薄れていく中、青年の絶叫が脳を揺らした。 「ラ……ターを返せぇぇぇぇええ!」 ――え? 今のなま、え……は、……。   それが最後、ラスターの意識は引っ張られるように消えていった。 やがて世界が光に満ちて、ぐるりっと変わった。
/709ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42229人が本棚に入れています
本棚に追加