プロローグ

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桐原は武士の家系で、その娘も厳格な雰囲気。 家族揃って苦虫を噛みつぶしたような顔をしていて、毒舌で、全体的に愛がない。 通称『ハラキリ』。 桜庭一族は正反対におっとりした一族で、父親は盲腸の痛みに気づかず死の一歩手前まで旅だったという武勲の持ち主だ。 その天然冒険魂は、確かに息子に継承されていたわけで。 夜中になっても帰宅しない息子を案じて『誘拐されたんです!』と警察に駆け込むあたり、桜庭一族のまろやかな天然さが垣間見えて面白い。 桜庭は関係者に滅茶苦茶叱られ、自転車は没収された。 くわえて学校中の笑い者となった。 校内新聞一面の座を永らく独占し続けもした。 特にインタビューで奴が口走った内容が受けに受けた。 『緊急特報! 蓮ヶ丈奥地に謎の人工建造物を見た!』 『完全踏破12時間、秘境の奥地に隠された禁断のオーバーテクノロジー!!』 『長い道のりの果て、ここで我々はいまだかつて想像だにしなかった衝撃の事実を見ることになる!』 無茶苦茶だ。 要するに奴は、帰宅の途中、道を外れて山に入ったわけだ。 おそらく近道目的だったんだろう。 そして偶然、とある施設を発見して大興奮した。 インタビューはこの後も、凄まじい展開となった。 『秘密基地が』 『衝撃の』 『武装した兵隊らによって』 『人類の常識を覆す』 本インタビューで使用された単語ベスト5。 第一位『謎』22回 第二位『衝撃』19回 第三位『発見』17回 第四位『禁断』6回 第五位『戦慄』4回 校内新聞は、桜庭という美味なる獲物を骨の髄までしゃぶり尽くした。
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