プロローグ

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桜庭は報道の残酷さを思い知った。 その後、ストレスで腹を下して一週間ほど下痢をした(記事になった)。 八日目の朝にはけろっとした顔で登校してきた(取材された)。 髪を金髪に染めて(ネタになった)。 以来、奴はずっと金髪ライフ。 きっと、新しい自分になる、という錯覚を己に課すことでストレスを克服したんだろう。 ……これが元で金銀コンビなどと称されることになったわけだが。 閑話休題。 もちろん桜庭が見た外宇宙から来訪した超知的生命体が極秘裏に建築した施設というのは原子力発電所なわけだ。 近代化が進み、文明が開化した。 富豪が何人も誕生し、ビルが建ち、人が増えた。 土地は安く、税金も安い。 電気代はタダだ。 だから街には無意味な照明が無数にある。 だからといって、ベンチにライトを仕込むことはないだろうに。 市はそのテーマを『癒し』と定めた。 市役所はロココ様式のそれはもう耽美的な建物で、外観から内装に至るまで『汝を癒してやろう』という厳かな気概に溢れ、来庁者を萎縮させまくっている。 ちぐはぐな土地。 だから……居心地が良いのかもしれないな。 こんな世界は、妙に親近感を抱かせる 「……いてっ」 軽薄な音がした。 頭がかくんと傾く。 首筋の筋がひきつって、ものすごく痛い。 「……なんだよ」 振り向けば、そこに少女が一人。 「なんだ、女帝か」 「……」 ノーリアクション。 「女王陛下にはご機嫌うるわしゅう」 片手をあげて挨拶する。 「……」 なおもノーリアクション。 エスプリのきいた言葉には、ウィットに富んだ返しがあってしかるべきなのだ。 『くわ~っ、誰が女帝か~っ、馬鹿言ってんじゃないですわ、すわすわっ!!』
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