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“花ぁ~朝摘みの花ぁ~は、いらんかねぇ~”と朝告げ鶏にまけぬぐらい、透る声の娘が京の町中を、
日も昇りきらぬうちから売り歩いていた。
娘の名は“さくら”といい15~6であろうか?
*
さくらが、お得意先のお店に、花一式を届けようと荷物を肩からおろしたときである。
その店の中から、
「こんな時間からお店はやっておりませんがな、も少しあとで、おいで」と番頭さんから、追い返された、少し青白い顔をした、どこぞの丁稚のような身なりをした若者が出てきたのである。
その若者こそ、今度の主人公、のちに菓子を作らせたら、京の都で名を知られる菓子職人山吹屋藤ヱ門真之である。
*
さくらは、お花を束ねて、入口脇で、中のやりとりがおわるのをまって、
「お花、おいておきまぁす」と快活につげ
再び花を背負って
「花ぁ~朝摘みの花ぁ」と透き通る声をあげ、京の朝もやを北にむかい消えていった。
*
再び、真之は、豆類卸の店を訪れて、無事材料を調達した。
この時代、和菓子は庶民には、高値すぎて、口にできるものではなかった。
現に、砂糖も塩も、庶民に流通するのは、明治中期ぐらいからだという。
*
材料をうまく、仕入れ真之は、生家のある山科への道を急いでいた。
目の前を
「朝摘みの花ぁ、あとわずかいらんかぇ~」と、さっき店先で、聞いた声がする急ぎ足をまた早め、その声に、追い付き、
「もし、その花すべていただきますぅ、おいくらですか?」
代金を払う、娘の手はとても15~6才の手とは思えぬ、働きものの手をしていた。
「あなたは、毎朝、お花売りしてるのですか?」
「いいえ。二日おきにきてますぅ」
「あっ、わたしも、あさって、清水さんにきますぅ。もしかしたら、また会えるかもしれませんね?」
と、愛想をよくして、ふたりは、別れた。
━━━━━つづく…★
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