第05話。花売り娘と菓子匠

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“花ぁ~朝摘みの花ぁ~は、いらんかねぇ~”と朝告げ鶏にまけぬぐらい、透る声の娘が京の町中を、 日も昇りきらぬうちから売り歩いていた。  娘の名は“さくら”といい15~6であろうか? *  さくらが、お得意先のお店に、花一式を届けようと荷物を肩からおろしたときである。  その店の中から、 「こんな時間からお店はやっておりませんがな、も少しあとで、おいで」と番頭さんから、追い返された、少し青白い顔をした、どこぞの丁稚のような身なりをした若者が出てきたのである。  その若者こそ、今度の主人公、のちに菓子を作らせたら、京の都で名を知られる菓子職人山吹屋藤ヱ門真之である。 * さくらは、お花を束ねて、入口脇で、中のやりとりがおわるのをまって、 「お花、おいておきまぁす」と快活につげ 再び花を背負って 「花ぁ~朝摘みの花ぁ」と透き通る声をあげ、京の朝もやを北にむかい消えていった。 * 再び、真之は、豆類卸の店を訪れて、無事材料を調達した。 この時代、和菓子は庶民には、高値すぎて、口にできるものではなかった。 現に、砂糖も塩も、庶民に流通するのは、明治中期ぐらいからだという。 * 材料をうまく、仕入れ真之は、生家のある山科への道を急いでいた。 目の前を 「朝摘みの花ぁ、あとわずかいらんかぇ~」と、さっき店先で、聞いた声がする急ぎ足をまた早め、その声に、追い付き、 「もし、その花すべていただきますぅ、おいくらですか?」 代金を払う、娘の手はとても15~6才の手とは思えぬ、働きものの手をしていた。 「あなたは、毎朝、お花売りしてるのですか?」 「いいえ。二日おきにきてますぅ」 「あっ、わたしも、あさって、清水さんにきますぅ。もしかしたら、また会えるかもしれませんね?」 と、愛想をよくして、ふたりは、別れた。 ━━━━━つづく…★
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