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「あっ、待って菊池さん! 私送って行きます!!」
お客様が帰る時はそうするのが基本でしょう?
私は慌てて菊池さんを追った。
……が。
「琴」
突然、湊が私の手を掴む。
「湊?」
「今日はもうゆっくりしてていいから…ね?」
駄目だ、行けない。
私の腕を掴む彼の手は、力がこもっている訳では無いのだけれど。
「……ね?」
湊が時々見せる切ない表現に、私はめっぽう弱かった。
「心配しすぎ……」
「君がまた記憶を失したりしたら俺が耐えられない」
私の具合が少しでも悪くなると、湊はとても心配症になる。
普段はのんびりとした捕らえ所の無い表情。
でもこの時だけはとても弱々しい表情になるんだから……。
「……分かった」
きっともう菊池さんも行ってしまっただろう。
「ありがとう、琴」
そう言ってはにかむ湊はどこか可愛いらしくて。
つられて私も失笑した。
「私……湊が一番大切、特別だよ?」
彼の笑顔はいとも簡単に私を動かしてしまう。
あの時分からなかった答えを、今は何も考えずに言えるくらい。
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