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ゆっくりと後ろを振り向いてみる。
「痛たた……また何も無いところで転んだよ……」
そこにいたのは二十代半ばほどの男。
ぼさぼさの黒髪。
白衣に下駄という妙な格好。
それになにより、その困ったような笑顔に見覚えがあった。
「琴、どこ行ってたの?あちこち探し回ったんだから……」
「琴って……私の名前?」
すると彼は深くため息をつく。
「また回線ショートしたのか……今日は日差しが強いから注意しろって言っただろ?」
そう言いながら自分の頭を撫でる彼の手はとても優しかった。
「君の名前は琴(コト)。……俺の名前は覚えてる?」
頭が混乱していた私は思いつくままに口を開いた。
「湊……?」
「うん、雪代湊(ユキシロミナト)。正解だよ」
不思議。
自分の名前も思い出せなかったのに。
彼の名前は覚えていた。
「帰ろうか、君を早く直したいし」
「帰るって……何処に?」
すると湊はにっこりと笑顔を浮かべ言った。
「んー、電脳地下街!」
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