序章

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例えば、事故で手足を失ったりすると。 逆に、大した痛みは感じないらしい。 強烈な大怪我の痛みをまともに感じないよう、脳がリミッターを設けてくれるらしいのだ。 恐怖も、同じなのだろう。 私は、このままでは間違いなく死ぬのに、余裕たっぷりにそんなことを考えられるのだから。 もう一度よく見てみる。 目の前に迫る、脅威。 太く伸びた腕。 鋭い爪。 全身を覆う体毛。 耳まで裂けた口。 赤く染まった、切れ長の目。 人ではない存在。 異形。 真っすぐに、こちらに向かってくる。 コフー… コフー… コフー… 比重の重い吐息が、ただならぬ殺気を醸し出す。 あぁ、もうそんなに近くに来ているんだ。 逃げなきゃ。 走れ。 動かない。 どうして? 早くしないと! 早く。 早く! ハヤク! ダメだ。 もう、触れ合える程の距離。 突如、咆え猛り、腕を振り上げる異形。 あんなのに、殴られたら!? 誰か。 誰か誰か。 助けて。 私、まだこんな所で死にたくない。 しかし、振り下ろされる腕。 それは、妙にゆっくりと見えた。
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