駄菓子の「たけや」

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店内に差し込む光が、ハウスダストを反射し、キラキラと光る。 古紙がすえたような、長いこと放っておかれたような、独特のカビ臭さ。 お世辞にも、決して清潔とは言えない環境だった。 そして、何より目を引かれたのが、その商品の数の多さ。 ココアシガレットや、一口プリン。 ソースせんべいや、ふがしといった、お父さん方が涙を流して飛び付きそうな一品。 得体のしれない、色とりどりの飴やガムが、カゴの中にばら売りもされている。 ざっと見回しただけでこんな感じだ。 これに、簡単な造りのオモチャ類、箱の一部がひしゃげたり、汚れたりしているプラモデルも加わるとなると… その品数の厚みなら、間違いなく一流だろう。 「うわ…スッゴーイ…」 簡単の声を漏らしながら、手近にあったチューブ入りゼリーを手にとってみる。 そのゼリーが積まれていた棚には、切ったボール紙に、手書きで「三十萬円」と表記されていた。 駄菓子屋では、よくあるユーモアだ。 見たところ、経営はしている。 しかし、如何として店員らしき気配が全くないのだ。 諦めて、もう、帰ろうか。 そう思った時、店の入り口の戸が開いた。
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