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「ねぇ。」
不意にあやが俺を呼ぶ。
「んー?」
と答えると、「あれ。する?」と、遠くのなおきとゆうを指差した。
バシャバシャと水のかけ合いをしていた。
「座ってる方が落ち着く。」
「だよね。」
ケラケラとあやは笑いだした。
しばらく潮の満ち引きを楽しんでいると、
「ねぇ。」
と、また、あやが言った。
「んー?」
と返事をすると、「何で私なの?」と、不思議そうに、寂しそうに、何とも言えない複雑な目をして俺に言った。
「俺、知ってるよ」
色んなあやを追いかけた。
「あやちゃんが照れ屋なとこ。あやちゃんが時々見せる可愛い仕草とかーあと…」
「もう良い!もう良い!」
手をぶんぶんさせながら、顔はいつものように茹で蛸のようだ。
「ほら!そうゆうとこ」
可愛いくて仕方無い。
「私も行ってこよっと!」
真っ赤な顔をしたあやは、必死になって俺から逃げようとした。
ゆうとなおきの近くまで行ったかと思うと、あやは突然、水面から姿を消した。
しばらくすると、なおきが転んで、あやは水面へ顔を出し、ゆうと2人で腹を抱えて笑っている。
なおきに羽交い締めにされてるあやは、とても楽しそうだった。
俺と居る時なんかよりも、ずっと楽しそうにしている。
しばらくすると、青ざめた顔で、なおきがあやを慌てて抱えてきた。
「しょう!人口呼吸!知ってるか!?」
見ると、あやの顔は真っ青だった。
「どうした!?」
「あや、息してないんだ!」
なおきとゆうは取り乱し、あやをしきりに揺さぶっては「あや!あや!」と叫んでいた。
「ちょっとどいて。」
俺は、体育の授業で習った人口呼吸のやり方をいちから思い出し、動転した心とは裏腹に、体は冷静に、人口呼吸をした。
「ゲホっ!ゲホ!ゲホ!」
5回ほど酸素を送って、心臓マッサージを繰り返すと、あやは塩水を吐き出し、「…しょう?君?」と虚ろな目で言った。
焦点は合ってなく、どこを見ているかも解らない。
「あー良かった!」
バタバタと取り乱していたなおきが大声で言った。
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