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「しょうが体育の授業真面目に聞いててほんと良かった!」
心底、安心したかのようになおきは言う。
「…あたし…?」
まだ虚ろな目のまま、呟くようにあやは言う。
「俺、溺れさしちまった…」
なおきが、落胆の顔を見せ、あやに言った。
「しょうが人口呼吸知らなかったら俺…あやを殺してしまってた。」
なおきの言葉に、事の重大さに気が付いた。
あやは、死にかけていたのだ。
「あたし、息してなかった…?」
やっと焦点が合ってきたあやがそう言うと、3人揃って「うん」と返事をした。
「…そっか」と力無くあやは言う。
不意にあやが立ち上がろうとして、転びそうになり、俺は慌ててあやを抱え込んだ。
「しばらく、日陰で座っとこう」
そう言うとあやは素直に腰を下ろした。
「あや!ほんと!すまん!」
なおきが顔を真っ赤にして、あやの目の前で両手を合わせていた。
本気で謝っているのが一目で解る。
なおきは、感情がこもると、すぐに顔が赤くなる。
「良いよ、もう、」
そう言いながらあやは片手でなおきを払った。
「怒って…る…?」
「な!い!」
「ほんとに…?」
「もう!早くゆうんとこ行ってよ!あたしはしょう君と居るんだから!」
あやは叫んだかと思うと、俺の腕をグイと引き寄せ、腕にあやの胸の感触が残った。
なおきとあやのやり取りに、幼なじみの特権が見え隠れした。
他愛の無いやり取りが、俺には羨ましくて仕方無かった。
手を差し出せば当たり前の様に出てくる手。そんな関係が羨ましくて仕方無かった。
「…ごめんな」
「え?!何が!?」
あやは素っ頓狂な声を出した。
「人口呼吸…」
「キス…奪っちまった。あの時は焦って何も考えて無かったけど…後々考えると…」
俺はあやの好きな人を、なんとなく、気付いている。
キスを奪ってしまったんだ…
「なーんだ!そんなこと!」
と言ってあやは笑い出した。
「こちらこそ有難う、しょう君が居なかったら私、死んでたかも!」
笑いながらあやは言う。
あやが死んでたかも…か。
「死んでたかも、なんて考えたくもない。」
あやが死んでたかも…。
考えたく無い。
「ごめん…」
あやはしょんぼりと謝った。
しばらくの沈黙の後、俺が「なぁ」と言うと、重なって「ねぇ」と言うあやの声が聞こえた。
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