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俺は目をつぶっているから当然その姿は見えない……、はずだった。
それなのに、見えている。
ロングのコートを着た男の人だ。
だけど、なぜか顔のところは黒い靄がかかっているようによく見えない。
そのうえ電車の中のはずなのに、すごく遠くにいるような気がする。
そのわりに声だけはよく届く、まったくおかしな感じだった。
「あなたは誰?」
そう言おうとしたのに言葉にならない。
「どうすればその疲れから開放されるか教えてあげようか?」
そんなものが本当にあるならぜひとも教えて欲しいものだ。
「何、実に簡単なことだよ。それは……」
そのときまたアナウンスが聞こえてきた。
目を閉じたときの駅の、一つ向こうの駅だった。
ゆっくりと目を開けると、中途半端に目覚めたとき特有のけだるさを感じた。
やっぱり寝ていたのか。
だけど、やけにリアルだったような。
そんなことを考えながら、俺は伸びをした。
そのとき持っていた肩掛けの鞄が床に落ちた。
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