伝播する闇

心の傷

「人の心は光よりも闇を宿しやすいように出来ている」

彼の思想はこののち多くの人たちを巻き込んだ大事件へと発展していく。
事件を傍観していた多くの人たちは、その原因は彼にあるのだと言って、彼を断罪した。

だが、本当にそうだったのだろうか？
自分が虫歯になったとき、甘いものが存在するからいけないのだと本当に考える人がいるだろうか？
いたとしてもあとに残るのは虚しさだけだ。
なぜなら、本当の原因は自分自身の弱さにあるからだ。

だからこそ麻薬に手を出す人間は逮捕される。
仮に麻薬と言う存在自体が悪であるといわれたとしても、本当の悪はそれに手を出す人間だと言うことになるからだ。

だが、彼の言葉を借りるとしたならば、それは勘違いである。
人は光よりも闇に向かっていく習性を持つ。

虫たちが光によって我を忘れ、光源に向かって飛び続けるように、我々人間もまた闇に向かって飛ぶように作られている。
己の身を焼くことになる炎の中に、身を投げる虫たちを人は馬鹿にするだろう。
だが、我々がいつそうなるとも限らない。

なぜなら、我々の心は闇を宿しやすいように出来ているのだから。