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「――い、おい、どうかしたか?」
「…あぁ、すいません。ちょっと考え事しとったから。少し酔うたみたいやし、頭冷やして来ますわ」
朽木の心配を他所に、暫し真一文字になっていた口元もへらりと何時も通りの弧を描き、市丸はゆっくりと腰を上げてその場を後にした。
「……今年で五年やったね…」
部屋を後にし、静寂が包む離れの一角に腰を降ろす。
月光が差し込む其処は、市丸自身の気に入りの場所であり、唯一落ち着ける所でもある。
「―――…そろそろ出て来たらどうなん?」
「あっ…ごめんなさい…お話を聞くつもりは…」
暫く黙っていた市丸が向かいの一室に視線を流すと、おずおずと小さな少女が姿を現した。
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