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「オーディンはフェンリルに言った。こんな紐も引きちぎれないようなら恐れる必要がない。解放してやるって」
ロキの瞳が虚ろに揺れたかったと思うと、彼から表情が消えた。トールは何か言葉をかけたかったが、喉の辺りで言葉が渦巻いて出てこない。
「テュールはフェンリルを鎖で繋ぐ時に、あの子を安心させるために口の中に腕を入れた。知らなかったんだよ、ただの紐にしか見えないそれが、頑丈な鎖だったなんて。フェンリルは身動きが取れないと知って大暴れしたよ。その時にあの子はテュールの腕を噛み千切った。騙されたんだよ、二人とも。あの策士(オーディン)に」
トールの胸がキシリと音を立てた。ロキの語ったオーディンの本性を頭の中で否定してみたが、そうするとロキの言葉が嘘になってしまう。親友と父親の間で揺れ動く天秤は、どちらにも傾かずにトールの心をかきむしった。
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