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季節は桜が満開の春だった。
大きく「入学式」と書かれた看板が何よりも目立っていた。
そこは実桜(ミオウ)学園高等部。慣れない制服に身を包み、あどけない笑顔で校門に入る少年少女がいた。
「ご入学おめでとうございます」
「おめでとう、おめでとう」
という言葉が、たくさん耳に入る。
少女の名前は、霧崎 氷雨(キリサキ ヒサメ)。
入学式を迎えたその日、その高校の一年生になった一人である。
彼女は満開の桜の木をその紅い瞳に映した。
そして、灰色の髪を風になびかせて立っていた。
すると、彼女の後ろから、またあの言葉が聞こえた。
「ひぃちゃん、入学おめでとう!
ぼぉっとつっ立って何してんのよ?」
氷雨に声を掛けた少女の名前は、霧崎 雅(キリサキ ミヤビ)。
金髪で蒼い瞳を持つ少女。
氷雨の、一つ年上の姉である。
「ちょっと、何?」
「…ここが一番、桜が綺麗に見えるの。ずっと、そういう場所探してた」
「あっ、そう。……って、そうじゃない!もう行かないと式始まっちゃうわよ!早くしなきゃ!」
雅は焦った口調で言うが、氷雨は落ち着いた姿勢を保っていた。
「そっか。じゃあ、仕方ないか」
氷雨はそう言うと、雅の手を握り、目を閉じた。
すると、その場に紅い閃光が走り、消えたかと思うと、二人の姿も消えてしまった。
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