ブランコ

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少し長く黒い髪が 濡れて頬に纏わりついている。 真っ白な肌に 大きな目 長い睫毛 少し色の薄い唇 細い体 薄紫に彩られた爪。 魅力的な容姿だった。 下心などではなく、 ただものすごく心配で 「よかったら、傘に入りませんか? 僕の家で 温まりましょう。」 そう、声をかけた。 「…紫陽花はある?」 「はい?」 「紫陽花よ。」 何故紫陽花? 疑問符を浮かべる僕に 「紫陽花が無いなら行かないわ。」 彼女はツンッと言い放った。 「なんで紫陽花なの? 無きゃダメなの?」 「なんでも。 紫陽花が無きゃダメなの。」 埒があかない。 仕方ない。 ふと見渡すと、 ブランコの周りには 紫陽花が咲き乱れていた。 「じゃあ…そこに咲いている紫陽花を 一本摘んで行こうよ。」 すると彼女は顔をあげて 「…この紫陽花を?」 「うん。」 「どれでもいいのね?」 「いいよ。」 彼女はニコリと微笑むと 一番大きくて 鮮やかな紫の紫陽花を 一本抱えて 傘に入った。 そして僕は 来た時より 窮屈になった傘を翳し 家路についた。
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