プロローグ

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確かに、そちらに関しては途方もないほどの知識を持っているが、この戦い方を見ればどちらがふさわしいかよく分かる。 そもそも考古学者がこんな戦いをする以前に強いはずがないのだ。 『黒い嵐』。 売り出しのあだ名はこれに決まりだ。 「何をブツブツ言っている」 「気にするな」 オレはふいに話題を変えた。 「そういえば、エレナはどうした?」 「知るか」 その名を聞いたとたんアーレスは気分を害して悪態をついた。 そうだった。 彼女とアーレスは決して仲がいいとは言えなかったことを忘れていた。 まずったな オレは言葉の選定に失敗したことに舌打ちをして、サングラスを中指でくいっ、と押し上げた。 「知らないならいい、オレ達は撤収だ」 「それは残念ね」 その時、オレ達の背後から冷めた女性の声が唐突に発せられる。オレ達は身体に染み込んだ咄嗟の反応で横へ飛んでそれぞれに武器を抜いた。 だか、それは取り越し苦労に終わった。そこへ立っていたのはオレがアーレスに問いただした女だったからだ。 ダークグレーのスーツをぴしりと着こなし、茶毛のかかったセミロングの髪を後ろでまとめ美人なのだが、それを覆い隠すほどお堅い雰囲気を撒き散らしている。 彼女の名はエレナ。 アーレス同様かなり掴みにくい性格をもった女性だ。 エレナは見た目通りのキャリアウーマンと言ったところだ。『ゼネラル・リソース』という会社の社員でも結構上のショップにいる。だが彼女こそ見た目に騙される事なかれ、どう見たって嘘臭いアーレスの考古学者気取りなどまだいい方だ。 エレナは本物の元暗殺者だ。おかげで喜怒哀楽の感情の基準値はゼロに等しく、沈着冷静でいつも冷めている。まあ、彼女にとってはそれが普通なのであろうがオレ達にとっては少々迷惑になるときがある。それが先程の登場の仕方だ。声がするまでオレ達に気配の気の字も感じさせなかった。 現役を退いているとはいえこの力量にはいつも舌を巻かされる。
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