暴君咆哮

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「総員、退避だ!」  後ろの仲間を振り返り、ユーリィは躊躇いなく指示を下した。  凡庸なリーダーならば、目の前の光景に戦慄して判断が遅れるはずだが、ユーリィは違う。戦場で鋼鉄の精神を鍛え上げてきた彼は、躊躇いが死を招くことを知っている。この状況で部下の安全を守るためには、逃げるのが最善だろう。  ものの1分弱でアレックスの肉という肉を食い尽くしたピラニアたち。その飢えは、まだ満たされてはいない。なにせ何百、何千という数で徒党を組んでいるのだ。たかだか80キログラムの肉塊で、ごちそうさまするわけにはいかない。 「発砲しつつ退避しろ!」  ユーリィの冷静な叫び声が飛ぶ。  同時に、ピラニアの群れが、一斉に牙を閃かせて飛び掛かってくる。まるで、無数に放たれるダーツのようだ。  ダークエンジェルの兵士たちが、サブマシンガンを斉射しながら階段を下って後退する。銃弾の火力と貫通力は非常に高く、直撃したピラニアたちが次々に弾け飛んでいく。  だが、キリがない。いくら逃げようとも、いくら倒そうとも、ピラニアの群れは増える一方で、ジワジワとサブマシンガンの嵐を押し返している。 (このバケモノどもめ)  敵勢に対し、ユーリィは徐々に焦りを感じる。  このままではやられる。サブマシンガンの弾数は限られている。今でさえヤツらの数に押されて劣勢なのだから、どれか1丁の銃が空になっただけでも、それは全員の死を表す。
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