暴君咆哮

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 30分かけて上ってきた階段を――しかも前方の敵をギリギリで食い止めながらなので、そう手早く下りられるはずがない。さっきからサブマシンガンをフル連射しているので、いつ弾倉がスッカラカンになってもおかしくない状態だ。このままでは、1階に着くまでに、全員がガイコツにされてしまうだろう。 (こうなったら……)  ユーリィは反撃しつつ、この危機を打破する案を練っていた。  可能性がある限り、最後の一瞬まで知力を絞り切る。それが、真のプロフェッショナルだ。 (てめぇら、まとめて焼き魚にしてやるぜ!)  ピラニアたちに向かって、敵意の目を見開く。 ユーリィの中で、何かが弾けた。ベルトに装備していた手榴弾を左手で取り、口で栓を啣えて一気に引き抜いた。 「全速力で走れ!逃げるんだ!」  銃声にも負けない大声で、ユーリィは何度も逃走を命じた。 「射つのを止めて逃げろ!命令だ、逃げろ!」  信頼するリーダーからの命令に、兵士たちは迷わず従った。 「了解!」  応えると、兵士たちは敵に背を向けて階段を猛ダッシュで駆け下りていく。傍から見れば、指揮官を見捨てた勝手な兵に見えなくもないが。 「化け魚の丸焼きって美味いのかねぇ」  切羽詰まりながらも、ユーリィは皮肉なジョークを漏らした。 「あばよ!」  ユーリィはサブマシンガンを投げ捨て、右手に持ち換えた手榴弾をサイドハンドスローでピラニアの群れへと放り込んだ。  その直後、ユーリィは反転し、焦りを丸出しにして敵前から逃げ出した。  間髪入れず、後頭部めがけて数十尾のピラニアが飛んでくる。その速い牙の矢が頭に達しようとした、まさにその瞬間――。  背後で、手榴弾が炎を吹き上げた。その爆風に抱かれて、ユーリィはピラニアの群れと共に激しく宙を舞った。
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