暴君咆哮

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 紅い体躯をした怪物は、鼻先からゆっくりと身を露にしてきた。  その威容を拝んだ兵士たちは、次々に戦慄していく。 「こ、こいつは……?」 「まさか、ありえない!?」 「絶滅したはずだぞ!」  怪物の身体が尾の先端まで光を浴びた時には、その正体に気づいていない者はいなかった。  剣山のような牙をあしらった、破壊の象徴たる大顎。巨象を凌ぐ体躯を支える強靱な2本の脚。太い腱が通った強固な尾。  その身体は、鮮やかな真紅に血塗られている。  それは、獣ではなかった。竜だ。太古の地球を永きに渡って支配し、陸の覇者として君臨し続けた巨大な竜。  こいつは、その竜たちの中でも王と呼ばれる強力な戦士だ。  地球史上、最大かつ最強の陸上捕食動物――肉食恐竜ティラノサウルス・レックスだった。 「本物の恐竜なのか……?」  本来ならば人類が永久に出会うはずのない生物を前に、フィリップたちは呆然とするしかなかった。  だが、この怪物――バーサークレックスにとっては違った。立ち並ぶ人間たちなど、ただの獲物にしか写らない。それも、とても貧弱で手頃な獲物にしか……。  バーサークレックスは身を反らせ、天井に突き上げた喉から咆哮を放った。施設全体が震えるような、すさまじい荒声だ。
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