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(ここにいてはいけない……)
誰かが、彼にそう囁きかけた。
耳にではなく、心の奥に直接語りかけてくるような、不思議な甘い感覚だ。
(ここにいてはいけない……)
その『声』は、まるで自分に旅立ちを促しているかのように聞こえた。
彼にとっては、暗がりでの暮らしは満ち足りたものではない。しかし、彼の命を育む揺りかごとなった、この漆黒の世界を離れるのは心許なかった。
「君は誰?」
彼は見えない『声』の主に問いかけてみた。
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