いち

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いなくなってしまった兄の葬儀はひっそりと行われました。                               無理に行われなくともよい、と言われるなか、父と母は 『周りの人に、もうこれ以上迷惑をかけてばかりはいられないから』とも、 『このままじゃあ、区切りがつけられないから』とも、言いました。                               からりと晴れた少し肌寒い日に、私たちは、白い小さな、からっぽの棺を、兄の代わりに冷たくひえた穴に埋めたのです。                               悲しい事故だ                               誰も彼も、そう言いました。                               そして溜め池のフェンスは新しく張り直され、すべてが終わりました。                               けれど、けれど私は知っていたのです。
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