いち

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そう、私は、私達は、知っていたのです。                               あのねちゃねちゃとした緑の藻が茂るあの溜め池――――――それを囲うフェンスにずいぶん前から穴が空いていることを。                               『大人』と、ひとくくりにされた人間は知らないその抜け穴は、私も兄も、そして兄の友すらよく知っていたものだったのです。                               溜め池の汚い水の中には、トンボの幼虫や、小さなオタマジャクシ。巨大な蛙や、よく太ったザリガニなどが潜んでいたのです。                               それらは当時の私達にとって、価値のある、大層な宝だったのです。                私達は幾度となく穴を通り抜け、その悪臭を孕んだ水に足を漬けながら、飽きることなく網を差し込み、糸をたらしたものでした。
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